手話言語条例を制定している京都府向日市は、
耳が聞こえない人を主人公にした漫画
「HELLO むこうの私」を制作した。
当事者の視点が重視され、市内の障害者団体が協力した。
当事者は、日常の苦労や聴覚に障害がある人でないと気づきにくい不安を話し、
「私たちの思いが多くの人に届いてほしい」と願いを込める。
市は2017年3月に条例を施行した。手話への理解を広める取り組みを続ける。
漫画は、聴覚障害について若い世代に関心を寄せてもらおうと企画。
京都精華大学(京都市)に依頼し、卒業生のプロの漫画家3人と一緒に、
市内の当事者へ取材を重ねた。
「ろう者編」や「難聴者編」など3章で構成。
聴覚に障害のある主人公が発音へのコンプレックスで引っ込み思案になったり、
病院で名前を呼ばれたことが分からず受付で叱られたりする。
不安な日々を送る中、手話を通じて周囲の理解が深まり、
次第に前を向いていく物語だ。
最終章は「手話通訳者編」として、通訳の意義と当事者からの期待を紹介している。
各章の末尾には、聴力に応じた支援の方法も掲載する。
市障がい者支援課は
「言葉が聞き取りにくい人がいることに思いをはせ、
手話に興味を持つきっかけになってほしい。
誰もが住みやすいまちづくりにつながれば」としている。
A5判100ページ。
8千部発行し、市内の小学4年~高校生に渡したほか、
府内の自治体や図書館、中学・高校に配布する。
市のホームページで5月中に公開する予定。
■背後の音きづかず、災害時に情報伝わらない…当事者の体験盛り込む
向日市が制作した漫画は、聴覚に障害がある当事者の経験を題材にしている。
一対一ならコミュニケーションをとれるが、
大勢になると誰が何を話しているのか分からなくなる―。
難聴者編に盛り込まれたエピソードは、
向日市難聴者協会長の太田ヒサさん(75)の体験だ。
太田さんはわずかに聞こえる左耳に補聴器を着けて暮らす。
東近江市で生まれ育ち、幼少のころに「おやつよ」と呼んでも
反応がないことに家族が気が付いた。手術しても改善しなかった。
結婚を機に向日市へ。背後から鳴らされた自転車のベルに気づけず、
通り過ぎざまの大きな怒鳴り声に身を縮こまらせる日々だった。
「外に出たら叱られるから、家の中に閉じこもっていました。」
難聴者は外見からは分からず、理解を得にくいといい、
「周囲にこんな人がいると気づくきっかけになってほしい」と願う。
ろう者編には、
災害時や電車が急停車した場合に情報が伝わらない不安が記されている。
体験を語ったのは向日市ろうあ協会の村田庸好さん(44)。
5歳の時に周囲の声が突然聞き取りにくくなった。
左右ともに感音性難聴と診断されている。
現在は、会社員として働きながら手話教室の講師を務める。
「音声案内など、聞こえる人にとっては当たり前のことが
私たちには不便な場合もある。
その気持ちを知ってもらえるとうれしい」と漫画に期待を寄せた。
2019年6月12日 京都新聞から紹介させていただきました。